22/01/2019
「タムラファーム」世界が認める日本のシードル
きっかけは前職での商談中の一言であった。〝長野のリンゴのほうがおいしい〟と。収穫の時期、熟度の違いが味の違いの要因と考えられるが、この言葉が癇に障り、〝よし、いっちょ自分で日本一おいしいリンゴを作ってみせる〟と思い起業した。タムラファーム代表取締役田村昌司、30歳の時である。いきなり3ヘクタールからのスタートであった。借金をして自分を追い込んだ。田村氏はこれを自然体という。取材中何度か自然体という言葉を口にした。そして次に述べる商品作りにまでこの思いは通じている。
田村氏が大切にしていることは、リンゴの持つ自然な力を導き出すこと。自社農園では、土作りに力を入れており、肥料は天然ミネラル豊富な自家特製有機質肥料。更に、採光空間を限りなく贅沢にとるなど、リンゴに日光が十分当たるよう、木と木の間隔を広くとって植えている。そして最大のこだわりは、完熟する一歩手前の段階まで収穫しないこと。こうすることで果肉が緻密で糖度の高いリンゴができ、そのこだわりが認められた結果が、数々の受賞に繋がった。シードル分野では、国際コンクールでポムドール賞(最高賞)を2度連続受賞、日本のシードルが初めて世界に認められた。また、紅玉をふんだんに使用したアップルパイは、各メディアで取り上げられ、日経新聞におけるアップルパイランキングでベストテンに選ばれている。まさに自然な力がなした業と言えるだろう。
さて、この会社の凄いと思われる特徴はリンゴ作りから、加工食品の製造、そして販売まで自社で完結していること。これにはここまで成功に導いた社長の粘り強い性格が一因する。起業3年目の1991年、いわゆる「りんご台風」で、収穫前にほぼ全て落果した。ようやく売れる体制ができた時だった。田村氏はこのとき嘆くことはせず、「ピンチはチャンス!」と思い、いち早く加工品ルートを確保。落ちたリンゴをジュースにして販売した。このことで何とか生計がたてられた。今でこそ生産から加工、販売することを、6次産業というが、実際の話は、必死に生活していくための手段であった。これも自然体ということか。
アップルパイの話であるが、リンゴの酸味と自然の甘味を味わっていただきたいという思いからシナモンを使わず、着色料も使わず、しっかりした歯ごたえを残し、香りとジューシーな食感を最大限に引き出したという。ここにおいても自然体。素材そのものの味わいを前面に出している。2013年に発売。そして前述のベストテンに選ばれた。取材最後に6次化での成功の秘訣は、と聞くと、「人との出会いを大切にして、築いた信頼、そして消費者を裏切らないこと」取材の最後に社長はきっぱりと結ばれた。
(弘前医療福祉大学短期大学部教授 牛田泰正)
2019/1/20 陸奥新報 日曜随想より