15/08/2026
【7月月例研究会報告】
7月5日(日)、東京学芸大学附属竹早小学校にて7月月例研究会が開催されました。今回のテーマは「子どもが“日常”(世界)をとらえ直すとき~子どものユーモアを基盤として~」です。講師に北澤俊之氏(元東洋大学教授・造形教育センター第28代委員長)をお迎えし、今期の研究テーマである「子どもが“世界”をつくるとき」を掘り下げるべく、子どもの見立てやユーモア、そして教師自身のものの見方を問い直す講演と討論が行われました。
北澤氏の講演は、「時制を今にせよ」という言葉を一つの軸として展開されました。「コスパ」や「タイパ」という現代の言葉から垣間見られる効率や結果(正解)ばかりを求める現代において、私たちが身体感覚を通したプロセスや、「今・ここでの驚き・迷い」を端折っていないかという問いが投げかけられました。さらに、レイチェル・カーソンの感性や西田幾多郎の「純粋経験」を引きながら、「見ること」の本来的な意味を考察されました。人は知識や固定観念を通して世界を見ることで日常をスムーズに処理できますが、同時にそれが新たな見え方を閉ざしてしまう側面もあるというお話をいただきました。
そうした固くなった見方を解きほぐす働きとして提示されたのが北澤氏がこれまで研究を深めてきた「ユーモア」と「見立て」です。北澤氏は、そこから意味のズレを発見し、異質な要素同士を接続する認知のプロセス(理解・探索・発見・接続)について解説してくださいました。北澤氏が行った様々な年齢にある約1500名に及ぶ子どもたちの作品分析から、発達に伴って対象のどの特徴を選び取り抽象化するかが広がっていく様子が示され、子どもの見立てが単なる思いつきではなく、世界を捉え直す高度な知的働きであることが明らかにされました。また、ビースタの教育論にも触れながら、教育を「予想不可能な出来事へ向かう営み」と捉え、弱さや愚かさも含めて受け止める「ユーモア的態度」の重要性を説いてくださいました。
フロアとの質疑応答では、他者の眼差しによって風景の意味が変わる体験や、シュルレアリスムの手法との親和性、文化的背景による認識の違いなど、多角的な視点から議論が深められました。特に、「世界を捉え直すべきなのは子ども以上に、評価や規範にとらわれがちな大人や教師、学校システムそのものではないか」という本質的な課題提起は、参加者全体に強い印象を残しました。
本研究会を通して、子どもが“世界”をつくるとは、ゼロから新しいものを創出することだけではなく、既知の日常の中から意味をずらし、別の文脈とつなぎ直すことで新しい世界を立ち上げることからもつくられていくと再認識されました。そして、子どもが「世界をつくる」瞬間に立ち会うためには、教師自身が自らの評価軸やスキーマを相対化し、子どもとともに「分からなさ」を楽しめる豊かな余白をもつことが求められます。
会の最後には、歴代の東京学芸大学竹早小学校の図画工作科の教員たちから、北澤氏への花束や記念品が贈られました。北澤氏が長年をかけて研究してきた「ユーモア」を通した笑いに包まれながらも、造形教育の本質へと迫る、実り多い時間となりました。
(文責 桐山瞭子)