20/06/2026
「今年が一番甲子園に近い」神奈川の実力校・相洋が悲願達成へ…上位進出を繰り返しても「チームに残るものは何もない」と覚悟の夏【まだ見ぬ聖地へ・第1回】
まだ見ぬ聖地を目指して──。
100年以上の歴史を誇る高校野球。その長い歩みの中で、多くの球児たちが甲子園という夢舞台を目指してきた。しかし全国には、いまだ一度も聖地の土を踏んだことのない学校も数多く存在する。
あと一歩で夢を逃した悔しさを知る学校や近年力をつけてきた新興勢力など、様々な思いを背負った選手達が、この夏も聖地をかけた戦いに臨む。『高校野球ドットコム』では、そんな甲子園未出場校にスポットを当て、これまでの歩みやチームの取り組み、そして未踏の聖地への思いを聞いた。
「正直チームに残るものは何もない」生まれた甲子園への覚悟
神奈川県勢として最後に夏の甲子園初出場を果たした学校は、2009年の横浜隼人が最後だ。以降は、横浜、東海大相模、桐光学園、慶応の4強が夏の代表を占めている。いわゆる“甲子園悲願校”にとって、聖地への道はきわめてハードルが高い。
そんな神奈川の強豪に何度もはね返されてきた一つが相洋だ。近年では20年夏の代替大会で準優勝、春も23年に関東大会出場、25年も春の神奈川大会で4強入りを果たすなど、安定して上位に食い込んでいるものの、あと一歩が遠い。
2012年から母校を指揮している高橋 伸明監督は「僕も(現役時代から)目指していましたけど、届きませんでした」と当時を回想する。指導者として常に選手に説いてきたのが「強いチームに負けたくない」という思い。そこから実力校としての立ち位置を確立しているが、集大成となる夏は厚い壁に阻まれてきた。
指揮官が初めて「甲子園」という言葉を口にするようになったのは2023年、現在の大学3年生の世代だ。
「選手の心構えが違いました。一生懸命やろうというのはどの学校も変わらないですけど、惜しい戦いとか、負けた経験とか、先輩達の悔しいものを見てきて、あの世代は“もう一歩”というのを徐々に積み上げてきた。だからこそ、初めて『甲子園』という言葉を使ったんです」
当時主将だった渡邊 怜斗捕手(現・駒沢大)を中心に経験値や能力の高い選手が残っていた。
「神奈川は激戦区なので、ベスト8に入るとメディアに名前も大きく載るじゃないですか。それでも、正直チームに残るものは何もないんですよ。渡邉の世代はそこに気づいたんです。選手もベスト8で何か環境が変わるわけではないし、浮かれているわけではない。そうなった時に、そろそろ上を目指したいとなって『甲子園』という言葉が出はじめました」
指導者側も甲子園出場へと舵を切ったが、根幹の指導方法は大きく変えていない。あくまで、選手自身の意識とすり合わせながらチームを作っていくスタンスだ。
「自分は本人たちが何を求めているのかが大事だと思っています。選手が掲げる目標を実力と照らし合わせながら『自分たちはここまでいける』と思って取り組むことです。それがベスト8でも悪いことではないし、今はベスト4、甲子園と言っているだけです。目指すべき場所を作って、そこに向けて頑張っていることに変わりはありません」
実際に春は横浜、東海大相模を倒して準優勝、関東でも8強入りを果たした。しかし、夏は準々決勝で横浜に敗れた。甲子園を目標に掲げたが、その壁も果てしなく高かった。
甲子園は「今が一番近い」、実りの春を経て挑む未踏の地
「甲子園に一番近いと思ったのはいつですか」
高橋監督に聞くと、間髪入れずに口を開いた。
「今じゃないですか? やっぱり負けてきて、積み上げてきた分、先輩も含めて今が一番乗っているところだと思います」
新チームは渡邊 怜斗の弟・優里斗が主将を務め、末野 洸之介外野手(3年)、西原 琉惟可外野手(3年)ら、2年時春のベスト4に貢献した選手も多く残っていた。しかし、昨秋の県大会では横浜隼人とあたって初戦敗退。「一番は主力選手のミスが続いてしまった。そこで取り返すことができなかった」と主将が話すように、自分たちの未熟さを痛感する結果となった。
長い冬を前にチームは「秋を取り戻す春にする」ことをテーマに再スタートを切った。悔しさを胸にキャッチボールやバント、簡単なゴロ捕球といった基礎的な練習から逃げず、泥臭く課題に向き合ってきた。
迎えた春季県大会。冬の厳しいトレーニングの成果は東海大相模撃破という結果で結実する。打っては「秋の試合は自分のせいで負けてしまったので、取り返そうと思っていた」と、7回に主将の渡邉が均衡を破る適時打を放った。投げても片見 瞭選手(2年)が2安打に抑える快投で、神奈川をけん引する両雄の一角を下した。
その勢いのまま準々決勝まで勝ち進んだ。ベスト4をかけた横浜創学館戦では敗れたものの、ノーエラーで終えられたことは収穫となった。秋を取り戻そうと臨んだ春。高橋監督も「夏に向けて経緯が良い」と笑みをこぼす。
「秋に負けを経験して、冬場に練習する時間があって。力を発揮したけど、やっぱり力不足だったと思える春があって。前後の試合である程度、ほかの学校さんの力量も見ることいができましたし、充実していたと思います」
いよいよ厳しい夏の戦いが始まる。その中心にいる渡邉は「自分の兄は横浜、東海大相模を倒して新しい景色を見せてくれた。自分ももう一つ新しい景色を見せたい」と、強い覚悟を持っている。
今月13日には抽選会が行われ、初戦は市ケ尾と関東六浦の勝者と対戦することが決まった。今年こそ夏の頂点へ。神奈川からまだ見ぬ聖地への扉をこじ開けにいく。
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