13/12/2023
作曲家芥川也寸志先生がTV番組の中で話した昔話。
第二次大戦の敗戦後、日本に音楽界の巨匠パウル・ヒンデミット(1895年~1963年)が来日し、日本の音楽界の若者たちが集まった講演会でこう述べたそうだ。「日本は戦争に負けたが、恥じることはない。日本には世界一の音楽がある。それは600年の伝統を持つ能の音楽だ」と。ヒンデミットはその前日に東京で能を鑑賞し、お世辞ではない率直な本音を語ったと芥川先生は語った。
私は若い頃は作曲家志望であり、和声法や対位法を学び、バッハやベートーベン、ショパンなどの曲を徹底的に分析し、洋楽の奥深さと完成度の高さに尊崇の念を抱いていた。しかし、東京に移住したのを契機に、ヒンデミットの言葉を確かめたくて能の教室に入門した。
謡曲「紅葉狩」の一節を謡っただけで体中が痺れた。打ちのめされた。指揮者も小節線も拍子もない自由な音楽なのに、高次元なのである。そして、能楽堂で初めて能を鑑賞した時、打楽器と笛、そして演者の歌が、一度の合同練習もないのに、一糸乱れることなく、完璧にに演奏されるのを見て圧倒された。
600年前に創作されたものなのに、独創的であり、新鮮であり、古典でありながら前衛的である。
演奏者は現行曲約200曲を常に暗譜しており、99%個人練習。もし本番で失敗すれば、昔は殿様の前で切腹、今でも仕事の依頼が消えてしまうと言う。厳格な武士道精神が現代も続いているのが能楽界である。バッハやベートーベンも能の音楽(お囃子と謡)を聴けば、呆然としたに違いない。洋楽の巨匠にも立ち入ることのできない別世界の音楽がそこにある。
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